2017.02/17 [Fri]
高齢化する米ベビーブーマー、その厳しい末路

カリフォルニア州出身のキャスリン・ウルフさん(68)は、老後をアイオワ州で過ごすとは夢にも思っていなかった。しかし、連邦破産法第13章(連邦破産裁判所の監督下で個人が経済的に再建する方法を規定)の適用を申請した後、考えを変えた。
ウルフさんは住宅など不動産の売買で財をなした資産家だったが、近年の金融危機で破産し、銀行口座の残高はわずか15ドル(約1700円)にまで落ち込んだ。
住んでいたカリフォルニア州モントレーから離れることにしたのは、破産申請に伴う債務返済計画によって月約1000ドルでの生活を迫られることになったからだという。多い時には1日15時間、インターネットで生活費が安い場所を探した。かくして昨年8月、アイオワ州の人口700人前後の町に行き着いた。
‘これほど晩年の人々が、ここまで多くの債務を抱えている状況を目にするのは初めてだ’
—ドイツ銀行のチーフ国際エコノミスト、トーステン・スロック氏
ウルフさんは、全米各地を調べるなかで、生活費の安い場所で生活するためには妥協が必要なことに気付いた。「こういった場所は一切高級化されていないし、気候も望ましくない。ヨガのクラスもない」
それでも、しゃれた西海岸の都市から中西部の田舎町への転居は、ウルフさんにある程度の満足感を与えた。これには自身も驚いたという。このことは同時に、全米にいる7500万人のベビーブーマーに対するアドバイスにもなるはずだ。
ベビーブーマーは全体として、これまでの世代より貯蓄額に大きな差があることで知られている。だが、蓄積してきた債務も多いことはあまり知られていない。
65~74歳が抱える債務は20年前の5倍
非営利の政策調査団体、企業福祉研究所(EBRI)が連邦政府のデータを分析したところによると、米国の65~74歳が抱える債務は、20年前の同年代に比べて5倍以上だという。
その返済は容易ではなかろう。シンクタンクの経済政策研究所(EPI)が行った政府データの分析によると、退職年齢に最も近い年齢層の世帯貯蓄額(中央値)は、過去10年間で32%減り、1万4500ドル(約164万円)となっている。
金融危機は、失業や減給、住宅価格の下落、ないしこれら3つ全てを通じ、多くの世帯に打撃を与えた。退職を控えた人で、クレジットカードや医療費にからむ債務を抱える人は少なくない。一部には、遅くに子どもを授かったため、大学の学費を支払う時期が退職直前に重なっている人もいる。
ドイツ銀行のチーフ国際エコノミスト、トーステン・スロック氏は「これほど晩年の人々が、ここまで多くの債務を抱えている状況を目にするのは初めてだ」と述べる。
結果として、多くの高齢者は引退を先送りしたり、生活費の安い場所に移ったり、出費を減らしたりといったことを迫られる。エコノミストらは、こうした状況が今後、米国経済の足を引っ張る公算が大きいと指摘する。

ウルフさんは長年にわたり、食品や衣服、高級品を気兼ねなく買っていた。だが、今は予算内で生活している。
お金のありがたみは最近まで「分かっていなかった」と話す。
毛皮のコートや高級車にリゾート施設
ウルフさんはカリフォルニア州サクラメント生まれ。10代だった1960年代にモントレーに引っ越し、カントリークラブに囲まれた穏やかな気候の場所で育った。
2つの準学士号を取得し、自動車の車体塗装工の訓練を受けたほか、アラビア語も学んだ。一時的にオレゴンやニューヨーク、ノースカロライナに住んたこともあるが、人生の大半はモントレーを基盤にしていた。
いくつかの清掃会社のオーナーを務めた後、2000年代初めに不動産投資業に転身。2005年のピーク時には、年金投資口座に20万ドルあったという。当時、自宅の評価額と貯蓄の合計は80万ドルを超え、さまざまな不動産取引から年間8万5000ドルほどの収入を得ていた。
不動産ブームを背景に、ウルフさんは自分が80代になっても経済的に豊かな生活が続くだろうと思っていた。毛皮のコート、デザイナーブランドのハンドバッグ、家具を購入し、2000年代にはBMWやレクサスなど高級車を次々と購入した。1万7500ドルを払って高級リゾート施設の会員にもなった。

「わたしは金持ちのふりをしていただけで、金持ちではなかった。稼いだら貯蓄するべきなのに、わたしはそれをしなかった」とウルフさんは話す。
金融危機に見舞われてから支出を減らせるようになるまで2年かかったという。個人的な不幸も重なり、車と家のローンが払えなくなった。
高級スーパーからディスカウント食品に
買い物をする場所は、高級スーパーのホール・フーズからコストコを経て、ディスカウント食料品売り場に変わった。貯蓄と収入が減るなか、缶詰などをキリスト教の慈善団体に頼るようにもなった。不動産の転売で稼ぐのではなく、その掃除をするようになった。
視力が落ちてきたが、メディケア(高齢者向け医療保険制度)の負担金が払えないため、新しい処方箋をもらうことができなかった。請求書や法的書類は、ティファニーの眼鏡フレームに虫眼鏡をつけて読んでいた。
ウルフさんは2015年に個人破産を申請。3万1000ドルの債務を返済するまで月650ドルを支払うことで合意した。なじみのないアイオワ州の小さな町に移ることも決めた。「不動産が手頃に入手可能なのは、全米で中西部だけ」だからだ。

2016年に入ると自宅として使っていたモントレーのコンドミニアムを40万ドル前後で売却。最も価格が下落した時の2倍で売れたが、それでも10年前に購入した価格を6万7000ドルも下回っていた。
この不動産売却で13万2000ドルが残った。新天地で新しい家を買って生活するには十分な額だと思った。結局、4つの寝室がある家を7万ドルで購入。寝室が1つしかない最も安いモントレーの家の約6分の1だ。
引っ越した翌日の朝、2階のバスルームでシャワーを浴びた。その後、1階のキッチンに行くと、大量の水が漏れていた。天井がはがれて、壁がふくらみ、食器棚が水浸しになっていた。

給水管と天井を交換しなければならず、予想外の出費だった。それでも、自宅を売却した資金のおかげで助かった。資産税はモントレーで払っていた額の4分の1未満だ。ウルフさんは生活費を少なくとも半分は減らせたと話す。
食事には困っていないし、何枚か新しい洋服も買った。新しい処方箋で、老眼鏡を買い換えることもできた。
ウルフさんは今までを振り返り、セカンドチャンスを手にして、まずまずの老後の生活を確保できた自分がラッキーだと考えている。
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